母子分離不安とは?

母子分離不安とは、お子さまが特定の保護者様から離れることに対して、強い不安や恐怖を抱く状態を指します。
日本では、お母様が主な養育者とみなされることが多いため、主にお母様との分離に不安を抱く状態を指す傾向にあります。
母子分離不安は、誰もが乳幼児期に経験する自然な発達過程の一つです。
しかし、年齢が上がっても過剰に続いたり、日常生活や登校に影響が出る場合は注意が必要です。
お子さまに母子分離不安の様子が見られた際は、まず基本的な特徴と原因を理解することが、対応への第一歩となります。
母子分離不安の原因

母子分離不安には、さまざまな背景や要因が絡んでいます。
単に「甘えているだけ」と片付けるのではなく、お子さまの性格や親子関係、周囲の環境まで幅広く状況を整理することが大切です。
ここでは、母子分離不安が起こる主な原因を5つ紹介します。
子どもの気質や性格
母子分離不安は、お子さまの元々の気質や性格に起因することがあります。
なお、「気質」は生まれつきの感じ方や反応の仕方を指し、「性格」は成長の中で形成される考え方や行動の傾向を指すものです。
元々不安傾向が強かったり、感受性が豊かなお子さまは、新しい環境や人との関わりに対して不安を感じやすく、保護者様と離れる場面で強いストレスを抱えやすくなります。
具体的には、初めての集団生活や見通しの立たない出来事が苦手で、登校の際に強く拒否反応を示すケースなどが挙げられます。
さらに、周囲の反応に敏感なため、他の子どもと比べて「一人でいること」に強い抵抗を覚えることも少なくありません。
このように、お子さま自身の内面的な特性が、母子分離不安に影響を及ぼす場合があります。
親の不安や過干渉
保護者様の不安や過干渉も、母子分離不安の要因となることがあります。
これは、保護者様の感情や行動が、お子さまの成長に大きな影響を与えるためです。
たとえば、「心配で手を離せない」「泣いているから登校をやめる」といった対応が続くと、お子さまは「一人では不安」「お母さんから離れるのは危険」と感じやすくなります。
結果として、自立の機会が減り、分離への耐性が育ちにくくなることがあるのです。
このように、保護者様の心理状態や接し方が母子分離不安の原因となるケースもあります。
愛着形成のゆらぎ
母子分離不安の背景には、親子の愛着形成が上手くいかなかった経験が関係することがあります。
乳幼児期に安心できる関係性が築かれていない場合、特にお母様との分離が強い不安として現れやすくなります。
愛着のゆらぎは目に見えにくいものですが、母子分離不安の強さと関連する大切な要素です。
発達障害などの特性
発達障害などの特性を持つお子さまは、母子分離不安を強く感じやすい傾向があります。
特性によって「変化」や「他人との関わり」が苦手で、お母様と離れる状況に強いストレスを感じてしまうのです。
自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などの診断があるお子さまは、見通しの立たない行動や新しい場面に不安を感じやすく、日常的な場面でも不安が強く出ることがあります。
こうした特性が背景にある場合、母子分離不安が長引くこともあるため、早めの理解とサポートが必要です。
なお、母子分離不安と発達障害の関係性については、こちらの記事でさらに詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
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環境変化へのストレス
環境の変化は、お子さまの心に強いストレスをかけることがあります。
たとえば、進学・進級、引っ越しや家族構成の変化といった家庭環境の変化は、お子さまにとって大きな負荷となるものです。
お子さまは日々の安定した生活の中で安心感を育むため、急な変化によって心が不安定になることがあります。
母子分離不安の症状

母子分離不安は、心の中の不安としてだけでなく、行動や体調の変化として表れることがあります。
中には、日常生活に支障をきたすケースもみられるため、早めに気づき、対処することが大切です。
ここでは、母子分離不安に見られる主な症状や特徴を紹介します。
登校を強く拒む
母子分離不安があると、お子さまは登校を強く拒むようになることがあります。
お母様と離れ、学校に行くことに強い不安を感じてしまうのです。
たとえば、朝になると「お腹が痛い」「学校に行きたくない」と訴え、玄関まで行っても動けなくなることがあるでしょう
泣いて抵抗したり、無言で固まってしまうケースもあります。
このような登校拒否は、単なるわがままではなく、分離に対する強い不安のサインかもしれません。
甘えや依存が年齢相応より強い
母子分離不安のあるお子さまは、年齢に比べて甘えや依存の傾向が強く見られることがあります。
自立する力が育ちにくく、保護者様のそばを離れたがらないのが特徴です。
一人で寝られなかったり、食事や着替えも保護者様の手を借りたがるなど、生活全般で「付き添い」を求める場面が増えてきたときには、注意が必要です。
このような行動は、不安を和らげるための行動である可能性もあります。
泣き叫ぶ・パニックになることがある
登校時に、泣き叫んだりパニックのような状態になるお子さまもいます。
これは、不安が強くなりすぎて、自分の感情をコントロールできなくなってしまうためです。
お母様に抱きついて離れなかったり、泣きながら大声を出したり、物を投げたりするなど、激しい反応を見せることもあるかもしれません。
こうした行動は、「心の限界を訴えるサイン」ともいえます。
無理に引き離そうとせず、背景にある不安に目を向けることができるとよいでしょう。
体調不良を訴える
母子分離不安が強いと、心の不安が体調に現れることがあります。
これは「心身症」と呼ばれるものです。
よくみられるケースとしては、登校前になると腹痛や頭痛、吐き気などを訴えるといった様子が挙げられます。
病院では異常が見つからないにもかかわらず、決まった時間に症状が出る場合は、心のサインかもしれません。
休み明けに不調が再発する
母子分離不安のあるお子さまは、長期休みのあとなどに再び不調を訴えることがあります。
学校から離れていた期間があると、分離への不安がリセットされてしまうのです。
母子分離不安は、一時的に落ち着いたように見えても、継続的なサポートが必要なケースもあります。
母子分離不安への対応

母子分離不安は、時間をかけて丁寧に関わることで少しずつ落ち着いていくことがあります。
離れることに無理に慣れさせようとするよりも、お子さまの気持ちに寄り添い、安心できる関係性を築いていくことが大切です。
ここでは、日々の関わりで取り入れやすい対応について解説します。
不安な気持ちを受け止める
お子さまが感じている不安は、否定せずそのまま受け止めてあげましょう。
突き放すと、かえって不安が大きくなる場合があります。
「怖いんだね」などと言葉にして共感するだけでも、気持ちは少しずつ落ち着いていきます。
回復のためには、お子さまが安心して気持ちを表現できる環境づくりが基本です。
安心できる日常のルーティンを作る
毎日の流れを一定にすることで、お子さまの不安を和らげることができます。
見通しの立つ生活は、安心感を生みやすく、お母様と離れる場面でも落ち着いて行動しやすくなるでしょう。
「朝起きたら朝食→着替え→出発」のように、わかりやすくシンプルな流れを決めておくのがポイントです。
日常に一貫性をもたせることが、心の安定につながります。
登校の負担を減らす工夫をする
登校がつらいときは、少しでもそのハードルを下げる工夫を取り入れましょう。
いきなり一人で登校するよりも、「途中まで付き添う」といった段階的な方法が効果的です。
お子さまの安心を第一に、保護者様にとっても無理のない形でのサポートを目指しましょう。
段階的に「離れる練習」をする
お子さまと急に長時間離れるのではなく、少しずつ距離をとる練習を取り入れるのも有効です。
いきなり集団生活に飛び込むのではなく、「5分だけ離れてみる」など短時間から始めると、お子さまも安心しやすくなります。
はじめは家の中で、別室にいる時間を増やすだけでも構いません。
小さなステップを大切に、焦らずに進めていきましょう。
他の家族・きょうだいにも配慮する
母子分離不安の対応に集中すると、きょうだいや他の家族が後回しになりがちです。
しかし、家庭内のバランスが崩れると、結果として保護者様の負担が大きくなってしまうことが想定されます。
家族には、できる範囲で協力をお願いしたり、きょうだいにも「今、〇〇はちょっと不安なんだよ」と状況を丁寧に説明しておくことで、理解や協力が得られやすくなるでしょう。
家庭全体で支える体制が重要です。
親自身のメンタルケアも忘れない
母子分離不安の対応は、保護者様にとっても精神的な負担が大きくなりがちです。
「自分のせいでは?」「どうしたらいいのか」と悩み続けると、気持ちが疲れてしまいます。
ときには、信頼できる人に相談するなど、保護者様自身の心を守ることにも目を向けてみてくださいね。
保護者様の安心が、お子さまの安心にもつながります。
母子分離不安の相談先

母子分離不安への対応に悩んだとき、保護者様だけで抱えこまず、専門的なサポートを頼ることも大切です。
母子分離不安の症状や背景、対応法はお子さまによって異なるため、第三者の視点を入れることで見えてくることもあるでしょう。
ここでは、母子分離不安に関する主な相談先を紹介します。
医療機関
心や体に不調が続いている場合は、小児科や児童精神科などの医療機関に相談しましょう。
母子分離不安は、発達特性や心の状態と関係していることもあるため、専門的な評価やアドバイスが必要になるケースもあります。
また体の不調が長引いているときも、まず医師に診てもらうことで、原因を探る手がかりになります。
「体に特段の不調がないのであれば、心の問題かもしれない」といったように、治療の方向性を検討しやすくなります。
お子さまの不安が強いときほど、医療の視点でのサポートが有効です。
学校・スクールカウンセラー
通っている学校に配置されているスクールカウンセラーも、身近な相談先の一つです。
スクールカウンセラーに相談することで、登校時の対応や、環境調整のアドバイスが得られるだけでなく、担任の先生との連携にもつなげやすくなります。
場合によっては保健室登校や短時間登校など、柔軟な対応を提案してくれることもあります。
相談先に迷ったときは、まずは身近な場所から、少しずつ支援を受けるのがよいでしょう。
オンラインカウンセリング
外出の負担が大きいときや、周囲に相談しづらいと感じる場合は、オンラインでのカウンセリングも選択肢になります。
自宅から気軽に相談できるため、時間や場所の制限を受けずにサポートを受けられるのが魅力です。
「不登校こころの相談室」には、不登校や母子分離不安に詳しいカウンセラーが在籍しており、ニーズに応じたサポートが可能です。
家庭の状況に合わせて、利用しやすい相談方法を取り入れてみましょう。
母子分離不安に関するよくある質問(Q&A)

母子分離不安については、年齢の基準や症状、対応方法など、多くの疑問や不安を抱く保護者様が少なくありません。
ここでは、母子分離不安に関するよくある質問を取り上げ、わかりやすくお答えします。
なかなか人には聞きにくいことや、判断に迷うことについて取り上げていますので、対応のヒントとして、参考にしていただければ幸いです。
母子分離不安の判断基準は?何歳ごろまで起こる?
母子分離不安は、1〜3歳ごろに強まることが多いものですが、小学生以降でも見られることがあります。
「母親と離れることを極端に嫌がる」「登校前になると強い不安や体調不良が続く」といった状況が続く場合は、母子分離不安が起こっており、さらにそれによって日常生活に支障が出ていると言えます。
お子さまの不安が続く期間や生活への影響の有無を一つの判断基準にするとよいでしょう。
母子分離不安が起こるのは母親のせい?
母子分離不安が起こるのは、決してお母様のせいではありません。
母子分離不安は、お子さまの生まれ持った気質や発達状況、環境的な要因が複雑に関係して起こるものです。
たとえ不安が強く出ていたとしても、それは親子の関係が悪いからではなく、「安心できる相手だからこそ依存が強まる」ということもあります。
お母様が自分を責めたり悩みすぎるよりも、今できる関わり方を見つけることが大切です。
なお、母子分離不安にまつわるお母様の影響については、こちらの記事でさらに詳しく解説しています。お母様の心のケアについても紹介しているので、あわせてご覧ください。
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母子分離不安は、保護者様の心身にも負担や影響を与えるものです。
対応を間違えると長期化してしまう懸念もある中で、「どこに相談すればいいのかわからない」と感じる方も少なくありません。
「不登校こころの相談室」では、臨床経験豊富なカウンセラーが、お子さまの状態や家庭の状況に合わせて丁寧にお話を伺います。
オンラインカウンセリングを通じて、安心できる環境でご相談いただけます。
母子分離不安が起こった際は、無理に登校を促すのではなく、「その子にとって何が必要か」を一緒に考えていく姿勢が大切です。
誰にも言えずに悩んでいることがあれば、ぜひ一度ご相談くださいね。