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夏休み明けは不登校になりやすい時期

夏休み明けは、不登校の相談が増えやすい時期とされています。
文部科学省の調査に月別の傾向は明記されていませんが、「9月1日前後に相談が集中する」という声が教育現場では多く寄せられているのが実情です。
また、夏休み明けは10代の自殺が増える傾向にあります。
最近では、厚生労働省や民間団体がこの時期にあわせて自殺予防の啓発活動を行うなど、社会的にも注目されるほど「夏休み明け」はデリケートな時期です。
これは、夏休みを経て生活環境が一変することや、心身のリズムが乱れやすいことが背景にあります。
夏休み中は学校のストレスから一時的に解放されていたお子さまが、再び登校を意識することで強い不安を感じるようになるのです。
このような現状を踏まえ、文部科学省は、教育現場に対して見守りの強化や相談体制の周知を求めています。
国の対応からも、夏休み明けが心理的に負担の大きい時期であることが分かりますよね。
夏休み明けの不登校は決して特別なケースではなく、多くのお子さまが直面する「自然な反応」とも言えるものです。
保護者様は、まずはこの時期特有の心の動きに気づき、否定せずに受けとめることが大切です。
(参考:文部科学省 令和6年7月12日児童生徒の自殺予防に係る取組について(通知))
夏休み明けに不登校になる理由

夏休み明けに不登校が増えるのは、偶然ではありません。
不登校のお子さまが抱える不安やストレスは、夏休み前から少しずつ蓄積されていることが多く、夏休みを経て一気に表面化する傾向にあります。
ここでは、夏休み明けに不登校が起こりやすい背景を具体的に見ていきましょう。
夏休み前の疲れが一気に出る
新年度が始まってから夏休み前までの間は、新しいクラスや先生、学習など、多くの変化にさらされる時期です。
お子さまは知らず知らずのうちに緊張や疲れを溜め込み、夏休みでその緊張が緩んだ途端、心と体のエネルギーが切れてしまうことがあります。
保護者様から見ると「夏休みで十分休んだのでは?」と思うかもしれませんが、実際には「気が抜けたことで動けなくなった」というお子さまも多くいます。
これは単なる怠けやわがままではなく、これまで無理をしていた反動ともいえるものです。
夏休み明けの不調は、頑張っていた証でもあることを理解してあげましょう。
生活リズムの乱れが戻らない
夏休み中は、夜更かしや朝寝坊など、生活リズムが大きく崩れがちです。
特に思春期のお子さまは体内時計が後ろにずれやすく、元のリズムに戻すことが難しい傾向があります。
結果、夏休み明けに登校時間に間に合うように起きることが負担になり、「朝起きられない」「体がだるい」と感じることで登校へのハードルが上がってしまいます。
こうした状態は、ただの甘えではなく、心身のコンディション不良と考えるべきでしょう。
生活リズムの回復には時間がかかるため、焦らず段階的に整えていくことが大切です。
宿題が終わっていない
夏休みの終盤になると、「まだ宿題が終わっていない」「手をつけられていない」と焦るお子さまは少なくありません。
その不安が「行きたくない」「怒られたくない」という気持ちにつながり、登校をためらう原因になります。
特に真面目で責任感の強いお子さまほど、完璧にできていない自分を責めてしまい、登校そのものを諦めてしまうこともあります。
人間関係の不安が再燃する
夏休み中は学校の友人関係から一時的に距離を置けるため、心が落ち着いていたお子さまも、夏休み明けが近づくと再び不安を感じ始めることがあります。
過去に小さなトラブルがあった場合、それが再燃しやすくなるのです。
不登校の背景には、表面化しにくい人間関係の悩みが隠れていることも多いため、学校での出来事や気になる相手について、さりげなく話を聞けるとよいでしょう。
学習面の不安が高まっている
夏休みで学習から離れた期間が長くなると、「授業についていけるか不安」といったプレッシャーを感じやすくなります。
1学期にわからない部分が残っていたお子さまほど、その不安は強くなりがちです。
一度「自分には無理だ」と思ってしまうと、登校そのものに苦手意識を持ってしまうこともあります。
夏休み明けの不登校のサイン

不登校は、ある日突然始まるわけではありません。
多くの場合、夏休み明けを前にして、お子さまの様子に小さな変化が見られるようになります。
これらの不登校サインを見逃さずに気づくことが、早期の対応につながります。
ここでは、保護者様が知っておきたい主なサインを紹介します。
体調不良を訴える
夏休み明けの登校の前日に「お腹が痛い」「頭が重い」と訴えるお子さまは少なくありません。
特に、登校時間が近づくにつれて症状が強まる場合、身体的な病気ではなくストレスからくる不調の可能性があります。
こうした訴えが繰り返される場合は、無理に登校させようとせず、まずはお子さまの気持ちに寄り添うことが大切です。
登校前に不安が高まる
朝になると涙を流したり、極端に落ち着かない様子を見せたりするのも、強い不安のサインです。
なかには、服を着替えない、玄関に近づこうとしないといった行動で抵抗を示すお子さまもいます。
不安は本人にもどうにもできないものであり、保護者様には、気持ちを否定せず受けとめる姿勢が求められます。
「どうして行けないの?」ではなく、「何がつらいのか、一緒に考えよう」という声かけが有効です。
宿題をやりたがらない
夏休みの終盤になっても、宿題にまったく手をつけようとしない場合、すでに学校に対する意欲を失っている可能性があります。
「どうせ行けないからやっても意味がない」と思っているケースもあります。
この場合は、無理にやらせるよりも、気持ちの面を丁寧に聞き取っていくことが大切です。
行動の背景にある感情を理解することが、回復への第一歩になります。
外出を避ける
夏休み中に活発に出かけていたお子さまが、急に外出を避けるようになったら注意が必要です。
外で誰かに会うことが億劫になっていたり、学校に関係する場所を避ける傾向があったりする場合は、登校への抵抗感が高まっているサインかもしれません。
この場合、「無理に出かけさせなければ」と思わずに、お子さまが安心して過ごせる空間を確保することが最優先です。
口数が減る
元々よく話していたお子さまが急に無口になったときも、心のSOSである可能性があります。
学校の話題になると表情が曇る、話をはぐらかすなどの様子が見られる場合は、何かしらの不安を抱えていると考えてよいでしょう。
会話を無理に引き出そうとせず、日常の中で安心できる関わりを重ねることで、少しずつ心を開いてくれるようになることがあります。
不登校に関する文部科学省の方針

不登校の増加を受けて、文部科学省ではさまざまな方針や支援策を打ち出しています。
かつては「登校できるようにすること」が主な目標とされていましたが、現在は「お子さまの安心と学びの保障」が重視されるようになっています。
ここでは、文科省の示す基本的な考え方と、実際の取り組みについて見ていきます。
不登校支援の基本方針
文部科学省は、平成28年に発出した通知において、「不登校は問題行動ではない」と明言しています。
これは、不登校を単なる欠席として捉えるのではなく、「ひとつの状態」として受け入れ、支援していくべきという大きな方針転換です。
また令和元年には、学校復帰だけを目標にせず、「多様な学びの場」の保障やお子さまの社会的自立を長期的に支える姿勢が打ち出されています。
このように、現在では国としても不登校への理解が進んでおり、学校復帰にとらわれすぎず、お子さま自身の心の安全を最優先にした支援が推奨されています。
(参考:文部科学省 不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)、文部科学省 「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」令和元年10月25日)
学校現場での具体的な取り組み
文部科学省は令和6年度より「COCOROプラン(不登校児童生徒の学びの支援総合対策)」を開始し、自治体や学校に対しても支援体制の整備を求めています。
このプランでは、以下のような取り組みが進められています。
- オンラインを活用した学習支援の充実
- 教育支援センター(適応指導教室)との連携強化
- 別室登校や保健室登校の推奨
- スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーの配置拡充 など
これらの取り組みにより、学校に「行く・行かない」の二択ではなく、「安心して過ごせる場所」や「無理のない学び方」が選べるように環境が整えられつつあります。
保護者様としても、こうした制度や支援策を知っておくことは、学校との話し合いや今後の方針を考える上での心強い材料となるはずです。
(参考:文部科学省 不登校対策(COCOLOプラン等)について)
家庭でできる夏休み明けの不登校への対応

夏休み明けにお子さまが不登校の状態になったとき、まず保護者様ができるのは「焦らず、安心できる家庭環境を保つこと」です。
状況を変えようと焦るほど、親子ともに心がすり減ってしまうことがあります。
ここでは、家庭で実践できる対応策を7つ紹介します。
お子さまの心に寄り添いながら、長期的な回復を支える視点で向き合っていきましょう。
無理に登校させようとしない
不登校の初期対応として最も重要なのは、「登校を強制しないこと」です。
学校に行けていないことに対して叱ったり、「頑張れば行けるはず」と言葉をかけたりすることは、お子さまにさらなるプレッシャーを与えてしまいます。
文部科学省も「学校復帰を前提としない支援」を基本方針としており、まずは休むことを肯定的に受けとめることが回復への第一歩です。
「今日はゆっくり休もう」「気持ちが落ち着いたら一緒に考えよう」といった言葉は、お子さまの安心感につながります。
家庭内の安心感を最優先する
お子さまが外の環境に不安を感じているとき、家庭が「安心できる居場所」であることは非常に重要です。
登校できないことに対して責められたり、兄弟と比較されたりすると、心はさらに閉じてしまいます。
家庭内では「ありのままの自分でいていい」と感じられる雰囲気作りを意識しましょう。
食事や会話、過ごす空間など、小さなことの積み重ねが信頼を築きます。
安心感は、心の回復の土台です。
学校に行く・行かないに関わらず、お子さまが安心して過ごせる場所を守ることが最優先です。
家族間の会話を大切にする
不登校のときこそ、日常の中での会話が大切です。
学校の話題ばかりに偏らず、好きなこと、最近の出来事、一緒に見たテレビの話など、軽い内容でよいのでやりとりを続けましょう。
会話の中でお子さまが「自分の気持ちを受けとめてもらえた」と感じることで、安心感や信頼が育まれます。
「無理に話す必要はないけれど、話したくなったらいつでも聞くよ」というスタンスを伝えることが、心の扉を開くきっかけになるかもしれません。
長期的な視点で見守る
不登校の回復には、時間がかかることも少なくありません。
一時的に登校できたとしても、また行けなくなることもあります。
そうした波を「後退」と捉えるのではなく、「その子のペース」と理解し、長期的な視点で支える姿勢が大切です。
学校に戻ることだけがゴールではなく、心が元気になること、社会とのつながりを少しずつ持てるようになることも大きな成長です。
焦らず、比べず、「今のお子さま」に合わせた支え方をしていきましょう。
学習のサポートをする
お子さまが不登校の間の学習の遅れを不安に感じる保護者様もいるでしょう。
しかし、「学校に行っているみんなは進んでいるのに…」という気持ちは、自己肯定感の低下につながりかねません。
学習の遅れは、お子さまの心身の回復を待ってからでも十分取り戻せます。
最適な学習方法はお子さまによってさまざまですが、家庭で無理のない範囲で学習のサポートをしていけるとよいでしょう。
たとえば市販のドリルやタブレット学習など、保護者様の負担にならない学習方法を選ぶのも、一つの手です。
お子さまを「勉強しないと」と焦らせるのではなく、「一緒にやってみようか」「やれるところからでいいよ」といった声かけができるとよいでしょう。
学校と連携する
夏休み明けの不登校は、保護者様だけで抱えこまず、学校と連携していくことも重要です。
担任の先生やスクールカウンセラーに状況を伝え、お子さまに合った対応を相談してみましょう。
「別室登校」や「保健室登校」など、学校ごとに柔軟な対応が用意されていることもあります。
無理のない形で学校とのつながりを保つことで、お子さまの「学校への戻りやすさ」が変わる場合もあります。
なお、学校に連絡する際は、「今できていること」を伝える視点を意識するのがおすすめです。
お子さまの現状に応じて、学校側もサポート方法を模索し、手を尽くしてくれることが期待できます。
保護者のメンタルケアをする
夏休み明けの不登校が続くと、保護者様自身が大きな不安や孤独を感じることがあります。
「自分の育て方が悪かったのでは」「今後どうすればいいのか分からない」と自責の思いにとらわれてしまうこともあるでしょう。
しかし、保護者様が心身ともに疲れてしまっては、お子さまを支えることも難しくなってしまいます。
保護者様も、ときには誰かに相談したり、リフレッシュの時間をとったりすることが大切です。
「保護者のケアも必要な支援のひとつ」だという認識を持ち、自分自身を大切にしてくださいね。
夏休み明けの不登校が続くときの選択肢

夏休み明けに不登校の状態が長引くと、「今後の進路はどうなるのか」と不安になる保護者様も多いのではないでしょうか。
ですが、不登校はあくまで「今の状態」であり、必ずしも未来を閉ざすものではありません。
現在では多様な学び方や支援の選択肢が用意されており、お子さまに合った形を選ぶことができます。
ここでは、夏休み明けに不登校が続いた場合に考えられる4つの選択肢を紹介します。
フリースクール・教育支援センターを利用する
学校以外にも、学びや居場所を提供する場所があります。
たとえば、民間のフリースクールや自治体が運営する教育支援センター(適応指導教室)などです。
これらの施設では、お子さまが自分のペースで学習したり、人との関わりを持ったりすることができます。
学校のような決まった枠にとらわれず、安心して過ごせる環境が整っているのが特徴です。
教育支援センターを利用する場合、在籍校との連携により「出席扱い」となることもあります。
まずは地域の教育委員会や学校に相談し、利用の可否や手続きを確認してみましょう。
家庭での学習スタイルを工夫する
家庭での学び方にも、工夫できる点はたくさんあります。
市販のワークブックやオンライン教材、動画学習など、お子さまに合った方法を取り入れることで、無理なく学習を継続することができます。
特に、通信教育やタブレット学習は「自分のペースで進められる」「間違っても誰にも責められない」といった安心感があるため、不登校のお子さまにとって有効です。
不登校の間は、すべての学習を完璧にこなそうとするのではなく、「家庭でできる範囲でいい」と思うことが大切です。
日々の暮らしの中で自然に学びの要素を取り入れるだけでも、自信や意欲につながっていきます。
医療的な支援を受ける
心身の不調が長引く場合は、医療機関の受診も視野に入れてみましょう。
特に、「朝になると強い頭痛や腹痛がある」「気分が極端に落ち込む」「起きられないほど体がだるい」といった症状がある場合、思春期に多い起立性調節障害やうつ症状の可能性も考えられます。
小児科や思春期外来、児童精神科などでは、不登校の背景にある身体・心理の要因を専門的に診てもらうことができます。
診断を受けることでサポートの方向性が定まり、学校側とも連携しやすくなることがあります。
「病院に行くのは大げさ」と思わずに、早めに専門家に相談することが大切です。
オンラインカウンセリングを活用する
夏休み明けに不登校になり、「誰かに話したい」「でも外に出るのはしんどい」というときにおすすめなのが、オンラインカウンセリングです。
パソコンやスマートフォンを使って、在宅のままカウンセラーに相談することができます。
お子さま本人だけでなく、保護者様が相談することも可能で、不安や孤独感の解消に役立ちます。
「不登校こころの相談室」でも、臨床心理士などの専門家による相談を受けつけており、まずは無料相談から気軽に始めることができます。
夏休み明けの不登校で悩んだら「不登校こころの相談室」へ

夏休み明けの不登校は、決して珍しいことではありません。
多くのお子さまが環境の変化や疲れによって不安を抱え、うまく気持ちを切り替えられないまま夏休み明けの学校生活を迎えています。
そのようなときに大切なのは、「どうすれば学校に行けるか」だけを考えるのではなく、「今のお子さまにとって何が安心か」を見つめ直すことです。
保護者様が寄り添いながら見守っていくことで、少しずつ回復のきっかけが生まれていきます。
とはいえ、家庭だけで対応を続けるのは心身ともに負担がかかります。
「なかなか人には言いにくい気持ちを聞いてほしい」「今の状況を整理したい」と感じたときには、ぜひ「不登校こころの相談室」を活用してみてくださいね。